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認知症でごはんを食べない 「今は食事」が伝わる5つの工夫

こんな時どうする?(症状別)
差し出されたスプーンに口を開けない高齢男性と、困った表情の家族(認知症の食事)

「口を開けてくれなくなってきた」
「ごはんを食べなくなってきた…」

現場では「食事拒否」と呼ばれます。
でも実際に関わっていると、拒否というより「今が食事の時間だと、伝わっていない」場面のほうが、ずっと多いんです。

食欲がないわけではありません。
きっかけさえつかめれば、そこからスムーズに召し上がる方が多いです。

ただ、それが長くは続きません。
途中で手が止まったり、また眠くなってしまったり。

だから、一度の声かけでは足りないんですよね。
「今は食事の時間ですよ」を、いろいろな方法で、何度も伝えていく。
デイサービスでも訪問看護でも、私たちがしているのはそういうことです。

食べない背景には、こんなことが重なっています。

  • 食欲の低下/味覚の変化
  • 飲み込みづらさ(嚥下機能の低下)
  • 口腔失行(うまく口が開けられない・動かせない)
  • 注意の分散や不安、入れ歯や口内トラブル、薬の影響 など

この前提を持てるかどうかで、関わり方はずいぶん変わります。
この記事では、デイサービスで働く私が実際にしている「伝える」工夫を、順にお伝えしますね。

この記事でわかること

・「食事拒否」の多くは、拒否ではないということ
・口を開けてくれないときの、スプーンでの合図
・きっかけが続かないときの、環境のつくり方
・短く届く声かけと、つられ食べの力
・受診を検討するタイミングとサイン

口を開けてくれないとき、スプーンでそっと唇に触れる

高齢男性の口元にスプーンをそっと近づける女性(認知症の食事介助)

唇に触れた瞬間、「あっ」というお顔をされます

デイサービスに、要介護5で食事もおやつも全介助の方がいらっしゃいます。
普段は傾眠がちで、うとうとされていることが多い方です。

その方に食事の時間をお伝えするとき、私がするのは3つ。
声をかける。においをかいでいただく。見てもらう。
それでも届かないときは、スプーンで唇にそっと触れる。

唇に触れた瞬間、「あっ」というお顔をされるんです。
今が食事の時間だとわかってくださったのが、こちらにも伝わります。

フォークだと、嫌な顔をされるんです

不思議なのは、フォークだと嫌な顔をされること。
同じように触れているのに、スプーンのときとは反応が違います。
丸みなのか、当たり方なのか。理由はわかりませんが、その方にとってはスプーンが合図なんだと思っています。

冷たいものだと、また反応が変わります。
おやつのゼリーやプリンは冷たいので、最初に唇に触れると、びっくりしたようなお顔をされます。
でも、甘いとわかったとたん、パクパク召し上がるんです。

「甘い」は、人間の本能から「食べて大丈夫」と思わせるものなんでしょうね。

ご家庭で試すなら

  • お茶やお味噌汁をスプーンに少しだけとって、唇に軽く当てるところから。
  • 無理に口を開けていただくのではなくて、体に「今ですよ」と伝える。
  • そのほうが、お互いにずっと楽です。

テレビを消すだけで、食べる日があります

テレビを消した部屋で、箸を持って食事をする高齢男性と見守る家族(認知症の食事)

刺激が多いと、「今は食事」が伝わりません

口を開けない・飲み込まない背景には、不安や集中しづらさもあります。
静かで落ち着いた場は、それだけで「食べる準備」になります。

認知症では、同時にいくつもの刺激を処理するのが難しくなります。
テレビの音、会話、においが重なると、「今は食べる時間」が伝わりません。

今日からできる環境づくり

  • テレビ・ラジオはオフ。
  • 食卓の上は最小限に(茶碗・汁物・主菜を三角に配置)。
  • 席は一定の場所に。デイサービスで毎回席が変わっても多くの方は大丈夫ですが、見える風景が同じだと安心されるようです。
  • 声かけを「あえてしない時間」も有効。そっと座って、同じものを一口食べて見本を示します。
  • 香りの強い柔軟剤・アロマは控えめに。食事のにおいと混ざると負担が増えやすいです。

目の前に、何も置かない

これは少数の方ですが、認知症が進むと、目の前にあるものを口に入れてしまうことがあります。

ティッシュだけではありません。
テーブルに飾ってあるお花の葉っぱを抜いて、口に運ぼうとされた方もいました。

飲み込めないので、もぐもぐされていてすぐ気づきます。
すぐにお口から出していただきますが、毎回冷や汗ものです。

食卓の上を最小限にするというのは、見た目を整える話ではないんですよね。
「目の前に何も置かない」が大事なときもあるのだと、現場で知りました。

環境づくりのよくある質問

Q:食卓で付き添う人数は?
A:多すぎると緊張します。 1〜2名までが目安です。

Q:音楽は流しても良い?
A:歌いたくなる曲は注意。 インストゥルメンタルを小さめに。

Q:食べないとき、何分待つ?
A:5〜10分を上限にいったん場をリセット。 再挑戦は時間をずらして。

静かな場をつくって、そばで同じものを一口食べて見せる。
言葉より、見せるほうが届くことが多いです。

「食べましょう」より「好きなお肉だよ」

「好きなお肉だよ」と声をかけて食事をすすめる女性と高齢男性(認知症の声かけ)

短く、肯定的に、一度だけ

「食べましょう」よりも、「好きなお肉だよ」のほうが届きます。
言葉は短く、笑顔で、伝えるのは一度だけ。

つい何度も言い直したくなるんですけどね。
一度にたくさん言葉を重ねると、かえって届きにくくなります。

一度だけ伝えて、少し待つ。
それでだめなら、時間をおいて、また伝える。
「一度だけ」は、あきらめることではないんです。

「好き」は感情の記憶に届きます

認知症では、言葉の意味を処理するのが難しくなっても、感情の記憶は保たれやすいと言われています。
「好き」という言葉は、意味より先に、安心として届くのだと思います。

言いかえの例

  • 「好きな○○だよ」 → 一拍おいて → お皿を本人の手前へ。
  • 「温かいお味噌汁だよ」 → 湯気をそっと見せる。
  • 「今はごはんの時間だよ」 → 時計を指さして、目でも伝える。
  • 避けたい言葉:「食べないとダメ」「ちゃんとして」などの否定語。

声かけは、短く、肯定的に、一度だけ。
それだけで、届き方が変わります。

一緒に食べると、つられて手が伸びる

食卓を家族みんなで囲み、笑顔で食事をする高齢男性(認知症のつられ食べ)

まわりの人が食べている影響は、思っている以上に大きい

楽しいと、つられてこちらも笑顔になってしまうように、
同じメニューでも、雰囲気で手の伸び方が変わります。

認知症が進んで食事の時間がわかりにくくなっている方ほど、
まわりの人が一緒に食べていることの影響が大きいと感じます。

お箸やスプーンを持っていただいて、お椀を手に持てば、そこからスムーズに召し上がる方も多いです。

認知症でお箸・スプーンが使えない 看護師が見てきた食事の工夫
認知症が進んでくると、食事のときに動作が止まってしまい、「あれ?お箸の使い方がわからないのかな?」と思う場面があります。食事は「選ぶ→取る→口に運ぶ→噛む→飲み込む」という複数の動作の連続です。そのひとつひとつを切り替えながら、こぼさないよ…

おにぎりを自分の手に持って食べる高齢男性と、見守る女性(認知症の食事の工夫)

つられ食べを起こす工夫

家族も同じ時間に着席する。

先においしそうに一口食べて見せる。

おしゃべりは、食事と関係のある明るい話題を。「今日のお味噌汁、香りいいね」など。

「役割」があると、顔つきが変わります

以前勤めていた小規模なデイサービスでは、ときどき調理の時間がありました。

インゲンの筋取り、玉ねぎの皮むき。
包丁で野菜を切ることも、思っていたよりずっと多くの方ができるんです。

体に染み付いていることって、大きいんですよね。

食卓でも同じです。
「スプーンをここに置いてくれる?」「お皿を並べてくれる?」
役割があると、みなさん満足したお顔をされます。

※包丁を使う作業は、必ずそばについて見守れるときだけにしてくださいね。

食べない日が続くときこそ、先に楽しい空気をつくってみてください。
「おいしいね」と笑顔で言うだけでも、空気は変わります。
「つられて一口」が入れば、そこから流れが変わります。

これは受診のサイン むせ・体重減少・脱水

食事中にむせこむ高齢男性と、心配そうに見守る女性(認知症の食事・受診の目安)

安全の確認がいちばん先

ここまでの工夫を試しても食べない。むせが増えてきた。体重が急に減ってきた。
そんなときは、伝え方の問題ではないことがあります。

早めに専門職に相談してください。

体調の変化が隠れていることがあります

誤嚥性肺炎や便秘、口腔トラブル、薬の副作用が関わっていることもあります。

相談・受診の目安

  • 熱や咳・痰、強いむせが出る。
  • 1〜2週間で2〜3kgの体重減少がある。
  • 水分摂取が1日500ml以下の日が続く。
  • 口内炎や、合わない入れ歯が痛そう。
  • 新しい薬を始めた直後から食べない。。

ご自宅なら、訪問看護、主治医、言語聴覚士(飲み込みのリハビリの専門職)、
歯科に早めのご相談を。

歯科は、通うのが難しければ訪問歯科という方法もあります。
入れ歯が合わない、飲み込みにくい、といったことも相談できますよ。
ケアマネさんに聞いてくださいね。

体重と水分量を今日からメモしておくと、相談するときに役立ちます。

水分をとってくれない高齢の親に 訪問看護師が現場でやっていた工夫
「水分とってね」「いらない」の毎日、疲れていませんか。訪問看護で多くのご家庭を見てきた看護師が、甘いジュースしか飲まない方への対応、栄養補助飲料の選び方、水分補給を習慣にするコツまで、現場の工夫をまとめました。

まとめ 今日からできる3つの一歩

食べない日が続くと、こちらの気持ちも削られますよね。
でも、拒否されているわけではないことが、ほとんどです。

伝わっていないだけ。
だから、伝え方を変えてみる。

  • スプーンで唇にそっと触れて、「今ですよ」を体に伝える。
  • テレビを消して、そばで同じものを一口食べて見せる。
  • 「好きなお肉だよ」と、短く肯定的に伝える。

うまくいった日があっても、また食べない日は来ます。
それでいいんです。そのつど、伝え直せばいい。

万能薬はありません。
でも今日の食事で、ひとつだけ試してみる。
それで変わる日が、きっとあります🌿

今日のヒントが、少しでもお役に立てますように(看護師姿の猫のイラスト)

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