- 自宅なのにウロウロしているなと思ったら、トイレに行こうとしていた
- 頻回にトイレに行くけれど、転ばないか心配で付き添っていたら、自分の睡眠不足が続いてしまう
- 充分に拭けずに下着を汚してしまう
排泄に関する悩みは本当に多く、でも人にはなかなか相談しにくいもの。つい怒ってしまって後悔したり、我慢の限界を感じてしまうこともあるのではないでしょうか。
今回は、認知症の方が「トイレの場所がわからなくなる」問題に焦点を当て、家庭でできる工夫や声かけの方法、そして介護するご家族の気持ちにも寄り添いながらまとめました。
①:なぜトイレの場所がわからなくなるのか?
認知症が進むと、「今、自分がどこにいるのか」「これから何をしようとしていたのか」がわからなくなることがあります。これは“見当識障害(けんとうしきしょうがい)”と呼ばれ、時間や場所、人の区別がつきにくくなる症状の一つです。
たとえ自宅であっても、「ここはどこ?」 「トイレはどこ?」と混乱してしまい、部屋の中をウロウロすることがあります。記憶障害によって「トイレに行きたい」という感覚を忘れてしまったり、排泄動作そのもの(ズボンを下ろす、座る、拭くなど)がうまくできなくなることもあります。
こうした変化によって、「何度もトイレに行こうとするけれど、たどり着けない」「違う場所で排泄してしまう」といった困りごとが起こってくるのです。
②:家庭でできるトイレ誘導の工夫と声かけ
「トイレに行きたいのかな?」と思っても、どんなふうに声をかけていいか迷う場面は多いものです。無理に誘導すると嫌がられることもあるため、自然な形で声をかけ、行動を促す工夫が大切です。
■ 排泄のタイミングを知っておく
まずは、本人の排尿・排便のパターンを日々の観察からつかんでおきましょう。 「朝食後に多い」「昼寝のあとが多い」など、ある程度のタイミングがわかれば、 声かけがしやすくなります。
また、**男性の場合は、**早い段階から座って排尿する習慣をつけておくと、移行期にも混乱が少なく済みます。
■ 声かけのコツは「さりげなく・共感的に」
認知症の方は、「自分でできる」と思っていることが多いため、命令的な声かけや強制的な態度は逆効果になることがあります。
たとえば:
- 「一緒に行こうか?私も行きたいし」
- 「寝る前に行っておこうか」
といったように、相手のペースを尊重しながら、共感的な声かけが有効です。
■ おむつ=介護ではなく「安心パンツ」と伝える
「おむつ」という言葉に強い抵抗感を持つ方も多いので、「安心パンツ」「リハビリパンツ」といった表現に言い換えるだけでも、受け入れやすくなることがあります。
また、夜間は吸収量の多いタイプにする、ギャザーをしっかり立ててあてるなどのちょっとした工夫で、漏れを防げる場合もあります。
③:トイレの場所がすぐわかる環境づくり
トイレの場所をわかりやすくしておくことは、失敗を防ぐ第一歩です。
■ 見た目で「トイレらしさ」を伝える
- 「便所」「トイレ」などの表示を大きく貼っておく(大きめの字で、目線の高さにすることも大事なポイントです)
- ドアを少し開けておく/中が見えるようにする
- トイレのフタはあけておき、ブルーレットなどの色つき洗浄剤で“ここが排泄の場所”とわかりやすくする

■ 誘導サインや照明の工夫
- 廊下に矢印表示や写真などを貼っておく
- 夜間はセンサーライトで足元を照らす、またはトイレの電気をつけたままにしておく
- テープなどを使って“トイレまでの道”を視覚的にわかりやすくする
「見てすぐにわかる」工夫は、認知症の方にとってとても大切です。
④:トイレ以外で排泄してしまったときの対処法
最初はショックを受けるかもしれません。 でもこれは、わざとではなく、認知症による混乱から起きてしまうこと。叱らずに、本人の気持ちも尊重しながら対応していくことが大切です。
外出先では、あらかじめトイレの場所を確認しておくことで、いざという時に慌てずにすみます。特に施設や大型の建物ではトイレの案内表示も確認しておきましょう。

■ 叱らない・責めないが基本
失敗した本人も、戸惑っているかもしれません。「大丈夫だよ」「一緒に工夫していこうね」と声をかけて、次につなげていきましょう。難しい時もあると思いますが、 淡々と対応するとスムーズです。
とはいえ、現実にはつい嫌な顔をしてしまったり、「もういい加減にして…」と口にしてしまうこともありますよね。 そんな自分にあとから自己嫌悪を感じることもあるかもしれませんが、それだけ真剣に向き合っている証拠です。 誰だって完璧な介護なんてできません。感情があふれる日があって当然です。
■ 汚れたときの備えをしておく
- ジョイントマットやユニットカーペットで汚れた部分だけ洗えるようにしておく。
- 違う場所をすっかりトイレだと思い込んでいるときには、「小便禁止」と書いた張り紙や、ペットシーツを敷いておくといった対策も有効です。洗えるペットシーツは価格も手頃です。
- 汚れた下着を入れるバケツやビニール袋を目立つ場所に置き、本人が自分で入れられるようにする。
⑤:家族の気持ちと在宅介護の限界
排泄の支援は、身体的な疲労だけでなく、心の疲れも大きく影響します。夜間の対応や失敗の片づけが続くと、介護者の生活そのものが成り立たなくなることもあります。
実際には、夜間に2時間おきに起きてトイレに付き添うようになると、介護者の睡眠が不足し、日中の仕事に支障をきたすケースが多く見られます。
「このままでは無理かも」と思ったときは、外部の支援を取り入れるタイミングかもしれません。
- ケアマネに相談
- デイサービスやショートステイの利用
- 施設入所という選択肢も含めて検討する
「家族だけで頑張らない」ことは、介護を続けていく上でとても大切な視点です。
まとめ:うまくいかない日があっても、それが普通
トイレのことは、想像以上に心を揺さぶられます。 「怒りたくないのに、怒ってしまった」 「自分ばかり頑張っている気がする」 そんな気持ちになるのも、介護を真剣に続けてきたからこそ。
でも、介護は完璧じゃなくて大丈夫。うまくいかない日もある、それが普通です。
「大丈夫じゃない」と思ったら、どうか声をあげてください。頼れるところに頼って、自分を少しでも楽にしてあげてください。
ご自身の人生も大切にしてほしいと思います。
今日できたことを、どうか自分で認めてあげてくださいね。
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