「最近、言いたいことがあるみたいだけど、言葉が出てこないようで……」
「“アレだよ、アレ!”って言われても……」
「うなずいているけど、話がかみ合っていない気がする」
「話している途中で、別の話に切り替わってしまう」
訪問看護の現場でも、こうした声をご家族からよく伺います。
高齢の方がうまく話せなくなると、どう接すればいいのか戸惑ってしまいますよね。
でも、そこには“理由”があり、関わり方の工夫でお互いの負担がやわらぐこともあるんです。
なぜ話さなくなるの?考えられる原因
① 認知症による「失語」や思考スピードの低下
「失語」とは、脳の“言葉をつかさどる部分”に障害が起きることで起こる症状です。
- 言葉が出てこず「アレ、アレ…」と繰り返す
- 「いちご」を「ちいご」と言い間違える
- 「いちご」を「りんご」と言い換える
- 同じ言葉を繰り返す
- 意味のつながらない言葉を話す
本人は一生懸命伝えようとしています。
うまく言葉にできないのは、決して 「何もわかっていない」からではありません。
② 疲れている・話す自信を失っている
言葉が思うように出ない状態は、 とてももどかしく孤独です。
何度もうまく伝わらないと、「どうせ伝わらない」「話しても無駄」と感じてしまうことも。
結果として、少しずつ言葉が減ってしまうのです。
③ 安心しているから、静かにしている場合も
あるご夫婦のお宅を訪問していた時のこと。
終末期の奥様はベッドで療養され、難聴と認知症のあるご主人は黙ってパソコンに向かっておられました。
「もう少し会話を」と思って声をかけると、
「静かに寝ているから、起こしてはいけないと思ってね」
と、ご主人なりに“思いやって”会話を控えていたのです。
それからは、私が間に入って橋渡しをするようにすると、奥様の笑顔が増え、ご主人の表情もやわらぎました。
言葉が少なくても、愛情や気持ちはちゃんと通じ合っているのだと学ばせてもらった場面です。
話しかけ方の工夫
● 話すペースをゆっくりと
高齢の方には、普通の会話が「早送り」のように感じられることがあります。
話すスピードを落とし、相手の反応を待つ時間をつくりましょう。
● わかりやすい言葉・短い文で
情報が多いと混乱しやすくなります。句読点を意識して区切りながら、2~3語ずつ話すのがポイントです。
例:
✘「明日外で一緒にご飯を食べよう」
⭕「あした、そとで、たべようね」
● 否定しない・訂正しすぎない
✘「それ違うよ」「わからないよ」
⭕「うん、それもいいね。でもこうするのもいいかもね。」
相手の言葉を一旦受け止めることが、信頼と安心につながります。
● Yes/Noで答えられる質問を
「今日はカレーがいい?うどんがいい?」よりも、「カレーがいい?」と聞くと、うなずくだけでも意思表示しやすくなります。
● 過去の思い出にまつわる話題
旅行、美味しかった食事、仕事、子どもや孫のことなど、
長期記憶は比較的残りやすく、懐かしい話は言葉を引き出すきっかけになります。
● 話すことを強制しない
「ただ一緒にいる時間」も大切です。
会話より“安心感”のほうが、相手にとって必要なときもあります。

言葉以外のコミュニケーションも大切に
- 手を握る
- 微笑む
- 目を見る
- 同じ風景を一緒に眺める
こうした“非言語的な関わり”も、大切なコミュニケーションです。
たとえ言葉は返ってこなくても、あなたの声や表情は届いています。
まとめとエール
うまく言葉が出ないご本人は、戸惑い、不安や孤独を感じているかもしれません。
そして、どう接すればいいか悩むあなたの気持ちも、きっと伝わっています。
言葉だけに頼らなくても、
笑顔・声のトーン・ぬくもりで気持ちは通い合えます。
焦らず、ゆっくりと――
あなたのその優しいまなざしが、何よりの安心になりますように。
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