認知症の家族の突然の大声。
怒鳴るような声に驚いたり、何度も続く叫び声に疲れ切ってしまったり。
「どうしてこんなに大声を出すの?」
「私の対応が悪いのかな」
悩んでいる方も多いと思います。
でも、まずお伝えしたいことがあります。
大声を出している本人も、実は苦しんでいることが少なくありません。
言いたいことが伝わらない。
不安だけが膨らむ。
自分でもうまくできないことが増えていく。
そんなつらさが、大声という形で表れていることがあります。
この記事では、デイサービスで働く看護師としての経験をもとに、大声が起きる理由と対応のヒントをお伝えします。
まず今すぐ試せること

「理由よりも先に、何かできることを知りたい」という方のために、
すぐ試せる対応を先にお伝えします。
- 安全を確認する——転倒や自傷のリスクがないか、まず確認します
投げて壊れるものはそっと見えないところにおきましょう - 少し距離をとって見守る——すぐそばにいることで、かえって興奮が続くことがあります
- 大きく反応しない——「うるさい!」と返すと、不安や興奮が高まりやすくなります
- 落ち着いたトーンで声をかける——「大丈夫ですよ」「そばにいますよ」と穏やかに
- 身体の不快を確認する——トイレ・痛み・脱水・便秘がないかチェック
- 環境の刺激を減らす——テレビを消す、照明を落とす、静かにする
「なぜ」が気になる方は、次の章もぜひ読んでみてください。理由がわかると、対応がぐっとしやすくなります。
「奇声」と「大声」ってどう違うの?
介護の現場では、認知症の方が出す声を大きく2つに分けることがあります。
| 種類 | 特徴 |
| 大声 | 「助けて」「痛い」「帰りたい」など言葉になっていることも、うまく言葉にならないこともある |
| 奇声 | 「アーアー」「ウーウー」など、言葉にならない声や叫び |
どちらも、本人が意図して「うるさくしてやろう」と思っているわけではありません。
脳の変化によって、感情や不快感をうまく言葉にできなくなった結果として現れる症状です。
なぜ大声・奇声が出るの?主な原因4つ
① 大声の奥にある本人の苦しさ

これは、あまり語られることがない大切な視点です。
私がデイサービスで出会ったある利用者さんは、突然こう叫びました。
「自分にイライラしてるんだよ!!」
その方は認知症の診断は受けていません。
でも、自分でも物忘れが増えていることを不安に思う言動がありました。
できていたことができなくなる。
思い出せない。
失敗する。
その悔しさを誰にも言えず、自分自身に腹を立てていたんですね。
周囲から見ると、誰かに怒っているように見えます。
誰かへの怒りではなく、うまくできなくなった自分への悔しさだったのです。
認知症の方の大声も、同じことがあります。
誰かを困らせたいわけではない。
うまくできない自分への悔しさ。
言葉にならない不安。
どうしていいかわからない苦しさ。
そんな思いが、大声という形であらわれてしまう。

大声の奥には、本人の苦しさが隠れていることがある。
それを知っているだけで、少し見方が変わります。
② 身体の不快感(痛み・便秘・かゆみ・脱水)

認知症が進むと、「ここが痛い」「お腹が張っている」と言葉で伝えることが難しくなります。
その代わりに、声に出して表現するようになります。
特に便秘は見落とされがちです。腸が張って苦しい状態が続くと、声が出やすいです。
排便のリズムを確認してみてください。
③ 不安・孤独感
「ここはどこ?」「自分は何をしているの?」という混乱や不安が強いとき、声を出すことで安心しようとするケースがあります。特に夕方から夜にかけて(夕暮れ症候群)は、不安が高まりやすい時間帯です。
④ 環境からの刺激
テレビの音、人の話し声、照明の明るさ——こうした刺激が過剰になると、脳が処理しきれずに声として出ることがあります。
もう少し詳しい対応のヒント
「どうしたい?」と聞いてみる

もし落ち着いて話ができそうなときは、正解を探そうとせず、こんなふうに聞いてみるのも一つです。
「どうしたい?」
「何か困っていることある?」
すぐに答えが返ってこなくても大丈夫。
返答を待つ時間も、大切なコミュニケーション。
私たちが落ち着いた気持ちで耳を傾けていると、ぽつりぽつりと本音を話してくれることがあります。
反対に、こちらが焦っていたり、「原因を見つけなきゃ」と力が入っていたりすると、
その気持ちは意外と伝わってしまうもの。
つい、
「お腹が痛いの?」
「トイレに行きたいの?」
「これが嫌だったの?」
と、こちらが答えを先に言ってしまいがちです。
私も昔はつい先走ってしまうことが多かったです😭
でも、どうか焦らないでください。
言葉になるまで待つことも、その人を尊重する大切な関わり方だと思っています。
認知症の方は、できなくなったことへの悔しさや不安を抱えている。
解決できなくても、気持ちを受け止めてもらえるだけで安心することもあるんです。
アロマや音楽で「安心」を届ける

好きなアロマの香り、好きだった音楽、昔のアルバムを一緒に見る——
言葉が通じにくくなっていても、五感を通じた安心は届きます。
手をそっと握る・背中をさする
肌の感触や温もりは、言葉が届きにくくなっていても伝わります。
そっと背中や手を握るだけで、声が落ち着くことがあります。
夕方は特に意識する
夕暮れ症候群が出やすい夕方〜夜は、明るすぎない照明の中で穏やかに過ごす時間をつくると、夜間の声が減ることがあります。
私が現場で感じていること

大声が出ているとき、私はまず安全を確認します。
そして少し距離をとりながら見守ることが多いです。
その場ですぐに何かを解決できるわけではありません。
でも時々、こんなふうに伝えます。
「大きな声を出すとびっくりしちゃうよ」
「怖くなっちゃうよ」
その時は反応がなくても、私は心のどこかで届いていると思っています。
時々、ご本人がぽつりと
「家族は疲れているみたい」と話されることがあります。
その言葉を聞くたびに、認知症になっても人を思う気持ちは残っているのだと感じます。
困らせてしまっていることや、迷惑をかけていることを、本人なりに感じているのかもしれません。
認知症になっても、人の気持ちを感じ取る力までなくなるわけではありません。
だから私は、その人を一人の人として尊重しながら関わりたいと思っています。

なんとか解決しようとしてたけど、「伝える」だけでもいいんだ。
介護者自身のケアも忘れないで
大声や奇声が続くと、介護する側も心身ともに消耗します。「つらい」「もう嫌だ」と感じることは、当然のことです。
- デイサービスやショートステイを積極的に使う
- 地域包括支援センターに相談する
- 「完璧にやらなくていい」と自分に許可を出す
- 睡眠と食事だけは最低限守る
よくある質問
Q. 認知症の大声は止められますか?
完全に止めることは難しいですが、原因に対応することで頻度や強さが落ち着くことが多いです。「止める」よりも「原因を探る」視点に変えると、対応しやすくなります。
Q. 夜だけ大声を出すのはなぜ?
夜間は不安感が高まりやすく、周囲の刺激も変化するため、声が出やすい時間帯です。日中の活動量や昼寝の時間を見直すことで、夜間の症状が落ち着くケースもあります。
Q. 薬で症状をおさえることはできますか?
症状が強く日常生活に支障が出る場合、主治医に相談することで薬の調整をしてもらえることがあります。自己判断での変更はしないようにしましょう。
まとめ:あなたも、本人も、悪くない

認知症の大声は、困らせるために起きているわけではありません。
そして、介護するあなたの対応が悪いから起きているわけでもありません。
本人も苦しい。
介護するあなたも苦しい。
だからこそ、まずは原因を探りながら、少しでも安心できる関わりを積み重ねていくことが大切です。
覚えておいてほしい5つのこと
- まず安全確認をする
- 身体の不快(便秘・痛み・脱水など)がないか確認する
- 大声の奥にある本人の苦しさに目を向ける
- 落ち着いたら気持ちを聞いてみる
- 介護者自身も無理をしすぎない
そして、もうひとつ。
認知症の大声は、ずっと続くものではありません。
体調や環境、不安の強さによって、一時的に強く出ることもあります。
今、とてもつらい時間を過ごしている方も、
「この状態が一生続くわけではない」
ということを覚えておいてください。今日を乗り切るだけでも十分です。
どうか一人で抱え込まないでくださいね。
この記事を読んでくださったあなたが、
「自分だけじゃなかった」
そう思えたなら嬉しいです。


