
ご家族が認知症と診断された時、
「何かできることはないだろうか」
そう思って脳トレを勧めたり、認知症に良いと言われる食品を探したりする方は少なくありません。
介護の現場で働く私もきっと、この本に出会わなければ同じことをしていたと思います。
でも、よかれと思っているその行動が、本人の自信や意欲を奪ってしまうことがある――。
今回は、認知症当事者の丹野智文さんと脳科学者の恩蔵絢子さんによる対談本を読んで感じたことをお伝えします。
この本について
著者のお二人は、認知症の「当事者」と「家族」という両側の視点を持っています。
丹野智文さんは39歳で若年性認知症と診断された当事者。恩蔵絢子さんは脳科学者でありながら、アルツハイマー型認知症のお母様を支えた家族でもあります。
認知症の進行をめぐる、二人の対談をまとめた本です。
手に取ったきっかけ
30代で若年性認知症と診断された著者が、10年以上経った今、何を思い、「進行」についてどう捉えているのかを知りたくて手に取りました。
脳科学者・恩蔵絢子さんとの対談ということも、興味を持ったポイントでした。
認知症の進行は、病気だけで決まらない
この本を読んで、ひとつのことに気づきました。
認知症の「進行」と思っていたものが、実は病気そのものだけではなく、
周囲の環境や関わり方も引き起こしていることがあるのではないか——と。
本の中でも「それって認知症の進行なの?」「周囲の優しさが認知症を進行させる?」という章があって、読み進めるうちに、そうだよなぁと腑に落ちていきました。
① 進行を招いているのは、病気より”周囲の関わり方”かもしれない
日本では「認知症=何もできなくなる病気」というイメージが根強くあります。
だから、診断された途端に——
- 財布を取り上げる
- 一人では外に出させない
- 説明もなくGPSを取り付ける
- 「脳トレをやらせなきゃ」「これが脳にいいらしい」と勧める
家族としては全部、愛情からくる行動ですよね。でも当事者の側から見ると、これらは全部こんなメッセージに聞こえてしまう。
「今のあなたのままではいけない」
「あなたはなにもできなくなる人」
知らず知らずのうちに、自信と自尊心を奪ってしまっているんです。
恩蔵さんは脳科学の観点からこう言っています。
脳が本来の能力を発揮できるのは、楽天的でいられる時だと。
本の中に何度も出てくる言葉があります。
「認知症は不安との戦いだ」と。
周囲が心配しすぎて、先回りして、信用してくれない。
そんな環境では、安心して新しいことに挑戦しようなんて思えないですよね。
当事者が求めているのは「守られること」ではなく、
「できないことを一緒に工夫してくれること」なのかもしれません。
② 丹野さんの言葉が、胸に刺さった
本の中で、丹野さんがこんな言葉を残しています。
「子どもでも大人でも、認知症であってもなくても、
自分の期待通りの相手になってほしいと思うのは、相手を縛り続けること」
読んだ瞬間、少しドキッとしました。
保護する立場になるほど、この気持ちって生まれやすいですよね。
海外の当事者と会ってきた丹野さんだからこそ、日本との違いに気づけたのだと思います。
日本ではまだ「当事者に選択肢を示す」支援が少ない。
「心配だから一緒に考えてほしい」と声をかけ、話し合えるご家族が少しずつ増えていくといいなと、願っています。
認知症の進行を早める3つの要因

① 孤独・孤立
診断を受けた直後の丹野さんは、2年ほど気持ちが落ち込んでいたそうです。
「どうせこれから進行するから」と、写真を撮る気もない。洋服も一切買わなかった。
そうして人との関わりをシャットアウトしていくと、症状はどんどん悪化してしまいます。
孤独は、認知症の進行を早める大きなリスクなんですよね。
② 役割の喪失
診断を受けたからといって、すべてができなくなるわけではありません。
でも「お財布持って出かけたらダメ」「お料理は危ないからあっちに行ってて」と言われたら、
どんどん自分の役割がなくなっていく。しゅんとなってしまうのも、頷けますよね。
③ 間違った優しさ
丹野さんも診断を受けた直後、奥さんが「脳トレの本」や「これを飲んだらいいんじゃない」
「これを食べたらいいんじゃない」と持ってきてくれたと書いてありました。
家族としては少しでも良くなってほしい。その一心だったと思います。
でも当事者からすると、「治さなければいけない存在」「今のままではだめな人」と言われているように感じることもあるそうです。
実は、こうした”間違った優しさ”は日常の中にもたくさんあります。
- 何度も「大丈夫?」と確認する
- 失敗しないよう先回りしてしまう
- 本人に聞かず家族だけで話を進める
- 危ないからと役割を取り上げる
- 本人の代わりに何でもやってしまう
どれも愛情から生まれた行動です。
だからこそ難しい・・・
ただ、それを繰り返されると本人は少しずつ
「自分は信用されていない」
「自分では決められない」
「何をやっても心配される」
と感じるようになります。
その結果、自信を失い、新しいことに挑戦しなくなり、人との関わりも減ってしまう。
もしかすると私たちが”認知症の進行”だと思っている変化の中には、病気そのものではなく、
こうした環境や関わり方によって起きているものもあるのかもしれません。
当事者が求めているのは、何でも代わりにやってもらうことではなく、
「できない部分を一緒に工夫してもらうこと」
この視点は、私にとって大きな気づきでした。
認知症の進行を遅らせるためにできること

① 人とのつながりを保つ
診断を受けた直後、「もう終わりだ」と感じてしまうのは自然なことだと思います。
でも丹野さんは言います。
「前向きな当事者に会いに行こう」と。
同じ立場の人と話すことで、希望が見えてくる。
気持ちが変わると、行動も変わっていく。
当事者同士のつながりが持つ力は、家族や支援者には代わりがきかないものなんですよね。
「一人じゃない」と感じることが、どれだけ大きいか。
また、本の中に「強いつながりと弱いつながり」という項目があって、
家族以外の”弱いつながり”を持とうと書かれています。
趣味のサークルや健康麻雀の仲間、ご近所の顔見知りなど。
家族には言えない本音を、気軽に吐き出せる場所のことです。
弱いつながりを作って、温め続けていくことって大事なんじゃないかなと思います。
② 好きなことを諦めない
行ってみたい場所がある。会いたい人がいる。
それだけで、生きるエネルギーになります。
「認知症だから無理」と先に決めてしまう前に、スマホやAIなどのツールを使って、
「どうすればできるか」を一緒に考えてみてほしいのです。
それから——女性にとっては、こんな小さなことも大切にしてほしいなと思います。
髪型が決まった日。お化粧ができた日。マニキュアを塗った日、アクセサリーをつけた日。
些細に見えるかもしれないけれど、こういうことって気持ちが外に向くエネルギーになるんです。できる限り、続けてほしいなと思います。
③ 本人が選べる環境をつくる
財布を取り上げる、外出を制限する——それが引き金になって、本人がうつ状態になり、
家族がさらに目を離せなくなる。この悪循環、本当によく起きています。
だからこそ、家族自身が少し「ゆとり」を持てる工夫も必要です。
食事はコンビニや宅食に頼っていい。
LINEで写真を送り合うだけでも、安否確認になる。
「全部自分でやらなければ」と思わなくていいんです。
丹野さんは今でも講演活動をされていて、準備は全部、自分でされているそうです。
失敗もするけれど、責任は全部自分で引き受ける。
ご家族が止めなかったことが良かったんだと、本には書いてあります。
きっと持ち物を忘れてしまうこともある。
でも、その小さな失敗を通じて、ご本人は次回に工夫するわけです。
指摘されたり怒られたりしなければ、失敗から工夫が生まれ、成功体験が積み重なって、
少しずつ自信を取り戻していく。
ご家族が温かく見守っているというスタンスが、とっても心に響きました。
訪問看護・デイサービスで働いてきて考えさせられたこと
この本を読んで、自分自身の関わり方を振り返る場面がいくつもありました。
「大丈夫?」という言葉
外出するたびに「大丈夫?」と聞かれたら、どう感じるでしょう。
信頼されていないと感じる方もいるかもしれません。
デイサービスでも、「トイレ、大丈夫?」って無意識に言ってしまっている自分がいました。
意識しないと、つい出てしまう言葉です。
自己肯定感を持ち続けられるような言葉かけを心がけたいと、改めて思いました。
GPSと「説明してから」の大切さ
丹野さんは「説明もなくGPSを取り付けられるのは嫌だ」とはっきり言っています。
「心配だからつけてもいいか、話し合って、納得してから持つ」
——それが当たり前であってほしいと。
訪問看護をしていた頃も、「説明してから取り付けましょう」という選択肢を、当たり前のこととして考えてこなかったなと、正直、反省しました。
地域包括支援センターでのエピソード
丹野さんが地域包括支援センターを訪ねた時、担当者が資料も名刺も全部——丹野さん本人ではなく、隣にいた奥さんに手渡したというのです。
よく考えたら、これってとても失礼なことですよね。
でも、この本を読んでいなければ、私も同じことをしていたと思います。
義母が電話口で悲しそうに話していたことを思い出しました。
「先生が全部、〇〇(娘の名前)に話すんだよね。本人が目の前にいるのにさぁ。
私が耳が遠いと思っているからだろうね」と。
診断されたばかりの頃は、新しいことを記憶するのが苦手になるだけのことがほとんどです。
「全部わからなくなった」わけではない。そこを、まず知ってほしいのです。
入院・施設での説明について
「どうせ覚えていられないから」と説明を省いてしまうことがあります。
でも、一枚の紙でも残しておけば、本人は何度でも確認できます。
忘れてしまうことと、説明が不要であることは同じではありません。
本人が安心できるように伝える工夫を続けたいと感じました。
まとめ
本当に大切なのは——
本人の言葉を聞く人がいて、
本人が決めたり、選んだりすることができる環境。
「大丈夫?」
その一言は優しさのつもりだったかもしれません。
でも本当に必要なのは、「大丈夫?」ではなく、
「どうしたらできると思う?」
「一緒に考えようか」
という関わり方なのかもしれません。
この本を読んで、そう確信しました。
認知症と診断されても、その人らしさがすぐに失われるわけではありません。
大切なのは、できないことを探すことではなく、できることを一緒に見つけていくこと。
心配しながらも信じる。
この本は、その大切さを改めて教えてくれました。
🌿 認知症のご本人との関わり方に悩んでいる方は、ぜひ一度手に取ってみてください。
