娘「お水飲まないと、熱中症になっちゃうよ!」
母「飲みたくないんだよ〜」
娘「もう知らないからね!」
母「……(無言)」
こんなやりとり、毎日になっていませんか?
私は看護師として訪問看護をしていた時期があるのですが、暑い季節になると、この「水分バトル」をしているご家庭が本当に多かったんです。玄関先で「もう、ぜんぜん飲んでくれなくて」と娘さんに出迎えられたことは、一度や二度ではありません。
言えば言うほど、意地になって飲まない。強く言ってしまった自分にも落ち込む。あの消耗を、そばで何度も見てきました。
だから最初に、これだけ伝えさせてください。
飲んでくれないのは、あなたの説得が足りないからではありません。水分は、正論では飲んでもらえないんです。
この記事では、訪問看護の現場で実際に手ごたえのあった、「飲ませる」のではなく「飲みたくなる形に整える」工夫を紹介します。
まずは「1日500ml」とれていたら合格
いきなり「1日1.5リットル」を目指さなくて大丈夫です。
目安は、1日500ml。湯呑みでいうと4杯分です。
朝に2杯・昼に1杯・夕方に1杯
これがとれていたら、今日は合格。そう決めてしまうと、介護するほうの気持ちもずいぶん楽になります。
ちなみに、飲み物からとりたい水分の理想は1日1000〜1500mlくらいとされています。ただ、水分をとる習慣がなかった方が、いきなりそこへは届きません。500mlが安定してきたら、少しずつ増やしていけたら十分です。
飲みやすくする工夫

コップを変えてみる
- 取っ手付き・飲み口が広がっているコップは、手が不自由でも持ちやすい
- 透明のグラスは中身が見えて、視覚的に「飲みたい」につながりやすい
- 氷を入れてカラカラと音をさせるのも、意外と効果があります
1回の量は「湯呑み1杯」まで
1回に飲みやすい量は、120〜130mlくらい。ちょうど湯呑み1杯分です。
コップになみなみ注ぐと、見ただけで「こんなに飲めない」とプレッシャーになってしまいます。少なめに注いで、回数で稼ぎましょう。
時間を決めておくのもおすすめです。朝起きたら、10時、お昼、おやつ、お風呂の前後。生活の節目に1杯ずつで、気づけば500mlに届きます。
「食べる水分」も立派な水分補給
飲むのが苦手なら、食べてもらえばいいんです。
ゼリー、スイカ、みかん、お味噌汁。水分の多い食べ物も、ちゃんと水分補給になります。
最近は「飲むゼリー」タイプも市販されていて、食感が楽しいものが増えました。
「お水は嫌。ジュースならいい」と言われたら
訪問看護で特に苦戦したのが、糖尿病を持っている方の水分補給でした。
もともと水分をとる習慣がない方が多いうえに、「お水やお茶は嫌だけど、甘いジュースなら飲める」という方が、結構いらっしゃるんです。
血糖のことを考えると、「ジュースをどうぞ」とは言えない。かといって、数字や理屈で説明しても、なかなか納得してもらえない。正直、何度も壁にぶつかりました。
その中で手ごたえがあったのは、意外な方法でした。
ご本人の好きなカップで、麦茶やルイボスティーなど糖分のない飲み物を出す。
それだけ?と思われるかもしれません。でも、「何を飲むか」は変えられない方でも、「何で飲むか」なら受け入れてくれることがあるんです。
特に女性は、好きなカップの力が大きいです。お客様用にしまってある素敵なカップを、思い切って普段使いにおろしてみてください。「このカップで飲むなら」と、麦茶に手が伸びた方を何人も見てきました。


そういえば戸棚の奥に、
母のお気に入りのカップがしまってあった気がします…。

ぜひ出してあげてください。
カップは飾っておくより、使うほうが喜びますから。
スポーツドリンクの「ちょこちょこ飲み」は要注意
「水分補給といえばスポーツドリンク」と、アクエリアスを常備しているご家庭も多いです。
ただ、ここはひとつ、気をつけてほしいところです。
アクエリアスは、500mlのペットボトル1本に糖質が約23g入っています(日本コカ・コーラの栄養成分表示より)。スティックシュガーでいうと、8本分ほどです。
麦茶がわりに一日中ちょこちょこ飲んでいると、本人も家族も気づかないうちに、かなりの糖分をとることになります。
汗をたくさんかいた日や、食事がとれない日には役立つ飲み物です。でも、毎日の水分補給の主役にはしないでください。糖尿病のある方は特に、スポーツドリンクとの付き合い方をかかりつけの先生に確認しておくと安心です。
水分も栄養も足りていないとき
水分をとる習慣がない方は、食事も細くなっていることが多いです。水分も栄養も、どちらも足りていない。訪問看護では、そういう方にたくさん出会いました。
そんなときに考えたいのが、「栄養補給もできる水分」です。
水分も栄養もとれないときは、かかりつけ医や薬剤師さんに相談して、その方の状態に合った栄養剤を出してもらうのが一番の近道です。病院でよく使われるものには「エンシュア」や「ラコール」があり、診察のときに相談すると処方してもらえる場合があります。
ここは、現場の実感を正直に書きますね。
エンシュアは、あまり人気がありませんでした。味が合わなくて続かない方が多かったんです。
ラコールのほうが飲みやすいという声が多く、メイバランスは味の種類が豊富で、「今日はどれにする?」と選ぶ楽しみがありました。
薬局や通販で手軽に買えるものなら、「メイバランス」や「アイソカル」。飲み比べセットで好みの味を見つけるのも、ひとつの手ですよ。
食が細くなってきたことのお悩みは、「食べてくれない」の記事にも書いています。
水分補給を「習慣」にするコツ

ここまでいろいろな工夫を書いてきましたが、水分がとれない一番の根っこは、「飲む習慣がないこと」だと感じています。若いころから飲まない方は、年を重ねて急には変わりません。
だから、説得ではなく「仕組み」で習慣にしてしまいましょう。
- いつもの行動にくっつける:朝ドラの前に1杯、お薬のときに多めに1杯、お風呂の前後に1杯
- 目に入る場所に置いておく:好きなカップを食卓に出しっぱなしにして、麦茶のポットとセットで定位置に
- 「どっちにする?」と選んでもらう:緑茶と紅茶、麦茶とルイボスティー。自分で選ぶと、すっと飲んでくれることがあります
- 一緒に飲む:「飲んで」ではなく「お茶にしようか」。自分の分も並べると、誘いになります
共通するのは、「飲みなさい」という言葉を使わずにすむ形を作ることです。
できない日があっても大丈夫。習慣づくりは、2歩進んで1歩下がるくらいでちょうどいいんです。
脱水のサインだけは知っておいてください
工夫を重ねても、飲めない日は出てきます。そんなとき慌てないために、脱水のサインだけは覚えておいてください。
- 脇の下が乾いている
- 手の甲の皮膚をつまむと、戻りが遅い
- 微熱がある
- 脈がいつもより速い(例:ふだん70回/分 → 90〜100回/分)
当てはまるものがあれば、かかりつけ医やケアマネジャーさんに早めに相談してくださいね。
よくある質問
Q:お酒も水分に入れていいですか?
A:入れません。アルコールには利尿作用があって、かえって体の水分を出してしまうことがあります。ビールを飲んだ日ほど、お茶やお水も一緒にどうぞ。
Q:心臓や腎臓の病気で、水分を控えるように言われています
A:その場合は、この記事よりも主治医の指示が最優先です。水分制限のある方は、必ず主治医に確認してください。
まとめ 正論より、好きなカップ
「とらせなきゃ」と頑張るほど、バトルは激しくなります。
目指したいのは、説得して飲ませることではなく、「気づいたら飲んでいた」という形です。
好きなカップを出す。手の届くところに置く。「どっちにする?」と聞く。一緒に飲む。
正論より、好きなカップ。訪問看護の現場で私がたどり着いた答えは、これでした。
飲んでくれない日があっても、あなたのせいではありません。
今日のバトルはいったんお休みにして、まずはあなたが、好きなカップでひと息ついてくださいね🌿



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